2021年02月25日

HARDBOILED制作手記

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HAAPアルバム2作目「HARDBOILED」のサブスク化に伴い、このアルバムを初めて告知したこのブログに制作当時のことを書き記すことにする。予め長文になることをご容赦いただきたい。
このアルバムを語るにはまず2年前のこの記事と同じここから書き始めなければならないだろう、、、


HARDBOILEDの前作「DISCONATION」が発売された2007年はJusticeを筆頭にフレンチエレクトロがシーンを圧巻した年だった。強いアタックのビートと過剰なディストーションサウンドによるエレクトロとロックの融合は今までのサウンドとは一線を画し、新たな刺激に溢れ、クラブシーンは新時代を迎えていた。その最中、リリース間もないDISCONATIONのサウンドは既に時代の終焉を迎えてることを僕は直感的に察知していた。

電子音楽がテクノロジーの進化とともに発展していくのは世の常だが、この頃はDAWが劇的な進化を遂げ、それに併せクラブミュージックも急速に進化していく時代だった。高性能なDAWの機能を活かした新たな音楽が次々と生まれ、僕自身今までのハードシンセとHDRによる制作環境での限界を悟り、DAWへの本格的な制作環境の移行を図る長く苦しい冬の期間に入ることになる。

2008年のシンクシンクレコーズのコンピ参加を除き、そこから2011年末までの4年間、僕はHAAPの楽曲を一切発表していない。正確には曲がまったく出来ない状況に陥っていた。曲のみならず今までの漠然としたミックスはDAWでは通用せず、ミックスの基礎から学び直す必要があった。この頃はDISCONATIONの音圧にすら及ばない状態に陥っていた。

フレンチエレクトロのムーブメントも落ち着き始めた2010年頃、僕はdeadmau5やAvicii、Calvin Harrisといった後のEDMブームを牽引する新世代のアーティストの音楽と出会うことになる。彼らが作るサイドチェインを駆使した強いビートときらびやかなシンセによる立体的でエモーショナルなハイファイサウンドの衝撃は今もよく覚えてる。当時の自分には到底作れない完成度の高いサウンドがそこには存在していた。僕はそのサウンドに近づきたい一心でBeatportで楽曲を買い漁り、その音を自分で再現するためにひたすらミックスの試行錯誤を繰り返していた。アルバムに収録されシングルカットされた「Confusion」はこの頃制作した楽曲である。およそ1年の間、ひたすらこの1曲の再ミックスを病的に繰り返す時期もあった。それでも満足のいく音になることはなかった。この当時は音楽制作が楽しいと思うことは殆どなかった。

2012年の春、ProTools LE〜Sonarを経てCubaseにDAW環境が落ち着く頃、今までの努力が実る1曲が完成する。アルバムのオープニングを飾る「Celebrity」である。聴く人の殆どがEDMと認識できるこの曲は、僕が初めて時代(2012年当時)に近づけたと確信できる現在のHAAPサウンドの原点となる曲であった。それはミキシングのノウハウを習得し直し、4年かけてようやくスタート地点に立てた瞬間でもあった。

しかし同時期、そんな音楽制作の前進とは裏腹に僕は人生最大の苦難を迎えることになる。

2011年の東日本大震災、、、その影響は僕の生活にも及び、低迷する音楽活動に加え家計への打撃が追い打ちをかけ、全てが上手くいかなかった僕は当時かなり精神的に荒れていた。そして影でそれを支えてくれてた僕の嫁さんはそのストレスを一人孤独に抱え込み、ストレス性の統合失調症を患ってしまっていたのだ。自分のことに精一杯でそのことに気づけなかった僕の責任と言っていい。あの時の後悔の気持ちは一生忘れない。
8曲目の「Deep Sencitivity」は直訳すると「思慮深き」である。このタイトルは優しすぎる性格ゆえに心を病んでしまった彼女に由来している。

その頃の苦しい状況の詳しくはここでは省くが、病状の一番ひどい時は幻聴による恐怖と被害妄想で自宅にいられず数日二人でホテルを転々とする時期もあるほどだった。世界中から自分たちだけが取り残されたような、まさに絶望感に飲み込まれた漂流の生活だった。生活を立て直すため畑が近くにある小さな一軒家に引っ越し、嫁さんの治療をしながら回復を祈り、人を避けるように身を潜めて静かに暮らす日々だった。時々自分が消えそうになるそんな日々の中で、自分自身を保つために僕が必要としたのはやはり音楽を作ることだった。

週末になると実家の制作部屋に籠もり、アテもなく音楽制作をひたすら続けた。まずは未完だったConfusionを仕上げ、その後はエレクトロハウスやプログレッシブハウス、テックハウスにバレアリックハウス、ダブステップ、、様々な形態のダンスミュージックを手探りながらも夢中でチャレンジした。

HARDBOILEDは外側に発信することを考えず、自分自身と向き合うためにコツコツと一人孤独に作り上げた内向的なアルバムだ。高校時代の自作曲のリメイクである前述のConfusionはじめ、JULLANカバー曲やゴブリンをオマージュしたホラーテイストの4〜7曲目、全て僕の青春時代の引用である。あの頃の情熱と新時代のサウンドを手にすることを渇望する僕の切実な想いによりそれらは成り立っている。

やがて月日が経ち、嫁さんの病状も普段は病気と意識しないくらいに回復した頃、気がつくとアルバムが出来るくらいの曲が出来上がっていた。

2016年1月、HARDBOILED完成

DISCONATIONから9年の時間をかけ、ようやく暗く長く険しいトンネルの出口にたどり着く。新生HAAPの再スタート。その後の僕の音楽活動はNekon Recordsのファンなら御存知の通り。次作となる「TIMELESS」はHARDBOILEDのサウンドを踏襲し、内側から外側にベクトルを変え、HARDBOILEDに引き寄せられ知り合った仲間たちと共に力を合わせて完成させたアルバムだ。この2枚のアルバムは僕の光と影を映し出す兄弟のような作品と言っていい。

寡作の僕には音楽シーンのメインストリームを歩く才能はない。常に裏街道をマイペースに走る鈍足ランナーだ。しかしHARDBOILEDを制作してた頃とは違い、そんな僕にも今では僕の楽曲に心を動かし、感動し、時には涙を流してくれるリスナーの方たちがいる。規模の大小関係なく、作家としてこれ以上の幸福はない。そんな不器用な昔ながらのテクノクリエイターが苦悩の末作り上げたこの無骨なアルバムが、ネットの片隅でひっそりと生まれていたことを、今回のサブスク化を期に心の片隅に覚えていただけたら光栄の限りである。

最後に、ジャケットとリミックスを担当したryuさん、TIMELESSのライナーノーツを書いてくれたTEBPのハヤシ君、Nekon Recordsとの橋渡しをしてくれた24P君はこのアルバム制作時から僕をサポートしてくれた数少ない友人であり恩人であることを書き加えておく。
今まで何度も言ってるが、改めてありがとう!



posted by HAAP at 22:43| Comment(0) | Diary
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